所得税等の定額減税の概要と留意点
今般令和6年度の税制改正関連法が成立したが、その中で今後混乱を招く可能性のある制度が定額減税である。定額減税は、昨年12月に閣議決定された「令和6年度税制改正の大綱」において、令和6年分の所得税について定額による所得税の特別控除を実施することが明記されており、今年6月から実施されることとなる。制度の概要としては、原則として所得税は1人当たり3万円、住民税は同1万円を減税するという内容であるため、この点だけを見ると大変シンプルにも思える。このうち住民税の1万円部分は地方自治体が事務処理を行うため、納税者や事業者が直接作業を行うことはないのだが、これに対して所得税の減税処理は非常に複雑である。詳細は国税庁のホームページやQ&Aを参照いただきたいが、以下主な留意点のみ抜粋して簡潔に紹介したい。
まず今回は、給付金や支援金のように政府や自治体から減税額が振り込まれるというパターンで事務が行われるわけではない。例えば給与所得者の場合には、毎月給与から天引きされる源泉徴収税額から控除される方式により行われ、個人事業主の場合には所得税の中間払いである予定納税や確定申告時の納税額から控除される形で減税の恩恵を受けることになる。つまり、給与所得者の場合であれば事業所の給与計算担当者、個人事業主であれば自分自身が責任を持って正しい事務処理を行う必要があり、特に従業員を抱える給与計算担当者の負担が増加することは想像に難くない(以下は全て給与所得者について記載)。
次に6月の源泉所得税額から控除できない場合には、その控除しきれない税額を7月以降の源泉所得税額から控除していくことになるため、その残額管理が非常に煩瑣になるだろう。しかも、多くの給与所得者が7月以降も引き続き源泉徴収税額から控除が行われるものと考えられるため、特に従業員を多く抱える事業所においては細心の注意が求められよう。続いて減税額は1人当たり3万円であるため、所得金額が一定額以下である同一生計配偶者や扶養親族がいる場合には、3万円×人数分(給与所得者自身を含む)が減税額として源泉徴収税額から控除されることになるのだが、この人数のカウント方法は年末調整時の配偶者(特別)控除や扶養控除とは異なる点も注意点である。詳細は割愛するが、このカウント誤りが多発する可能性は十分考えられる。さらに、例えば①制度開始月の6月前後に事業所に社員が入退社、或いは扶養親族が増加した場合、②公的年金等と給与を併給している社員がいる場合、③毎月乙欄で源泉徴収税額の天引きをしている非常勤役員がいる場合、などについては、仮に誤った事務処理を行った場合には減税額の重複や漏れが生ずる可能性も懸念される。
以上、多くの事務処理が当事者に委ねられた形となり、制度に関する知識が不十分な場合には相当の混乱やミスが発生することになるだろうが、先に紹介した国税庁のホームページ、給与計算担当者向けの説明会やコールセンターなどを活用して、正しい処理をスピーディーに行っていくことが求められる。