労働基準法により作成・保存が義務付けられている書類
事業活動を営んでいくに当たっては、各法令に基づき様々な書類の作成・保存が義務付けられている。例えば税務では総勘定元帳(帳簿)やその作成の基礎となった証憑書類などがその典型例であり、特にインボイス制度の導入を機に書類の保存要件は一層厳格になってきている。そして税務と同様に労務に関しても、労務管理を適切に行うことなどを目的として様々な書類の作成・保存が義務付けられている。そこで今回は、これらの書類の中から代表的なものについて紹介していきたい。
まず、労働者の氏名・住所・雇用年月日といった情報を記載した「労働者名簿」が挙げられる。従業員を1人でも雇用している事業主は、労働者名簿の作成が義務付けられており、その名簿に記載すべき事項についても法令で明確に定められている。但し、日々雇い入れられる者(日雇労働者)についてはその範囲から除かれており、この点は後述する賃金台帳とは取扱いが異なるため、社会保険労務士試験においても定番の論点であったと記憶している。
次に、労働者の賃金の計算期間や労働時間・日数などを記載した「賃金台帳」である。よくある誤解として、給与所得者の年間所得税額の確定や源泉徴収票を作成するために使用する源泉徴収簿と同じ書類ではないかというものがあり、私自身も税理士業界で仕事を始めた当初に賃金台帳というワードを聞いた時は、源泉徴収簿が賃金台帳の役割を果たすものと勝手に考えていたが、両者は全く別物である。そもそも各書類に記載すべき事項が異なることに加え、源泉徴収簿は法令で定められた書類ではないのに対して、賃金台帳は法定帳簿であるため適正に作成・保存していない場合には罰則の適用がある。
さらに、労働者の労働日数や出勤・退勤時刻などを記した出勤簿がある。私の中では出勤簿=タイムカードの打刻というイメージがあるが、特にリモートワークや在宅勤務が導入されている事業所では、パソコンや各種ITツールを活用した勤怠管理方法が主流なのだろう。注意点としては、出勤日に押印するだけでは労働時間数が把握できないことから適法な書類とは認められない。また、日雇い労働者やパート・アルバイトについても正社員と同様に作成・保存する必要があり、この点は賃金台帳と同様の取扱いである。
以上、労務面で代表的な3つの法定書類について紹介したが、特に小規模事業所であると未作成又は記載事項が不十分であるケースも決して少なくないと考えられる。だが、前述の通りこれらの書類作成・保存は法令上の義務であり、違反した場合には罰則も課される。加えて、助成金の申請に当たってもこれらが必要書類とされていることが多いため、法令に基づく適切な対応が求められる。