2割特例を適用した場合における消費税申告時の留意点
令和6年1月の記事でも紹介したとおり、個人の免税事業者が令和5年10月1日からインボイス発行事業者になった場合、令和5年分の確定申告については、これまでの所得税に加えて令和5年10~12月分の取引について新たに消費税の確定申告が必要となる。これらの事業者の多くはこれまで消費税申告を行った経験がないものと思われ、納税負担は無論のこと、確定申告書の作成についても少なからず不安を感じているものと考えられる。そこで今回は、おそらく多くの事業者が利用する申告方法である「2割特例」の概要、及び令和5年分の消費税申告時に2割特例を利用する場合の留意点について説明したい。
まず、インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者として課税事業者になった場合には、仕入税額控除の金額を特別控除税額(課税標準である金額の合計額に対する消費税額から売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額の100分の80に相当する金額)とすることができる。これは「2割特例」と言われ、極めて簡潔に表記するならば、税込売上高×約1.8%を納税額とする申告方法である。例えば、令和5年10月~12月の課税対象となる税込売上高の合計額が220万円であった場合、納税額は4万円となる。
また、2割特例を利用した場合、取引の相手方がインボイス発行事業者であるか否かによって納税額が変わらない点も大きい。その理由は、税額計算に必要な数値は税込売上高のみであり、仕入や経費などの金額は一切問われないからである。一方、税込売上高については、漏れや誤りのないようしっかり算定しなければならない。また、この際にはくれぐれも(年間売上高ではなく)10~12月の3か月分の合計売上高を集計することについては、特に強く意識しておく必要がある。
さらに、2割特例の適用に当たって事前の申請・届出は一切不要であり、申告書の所定欄にチェックを付して提出するだけでその適用を受けられる。国税庁の申告ソフトなど一般的な税務申告ソフトでは、この欄にチェックを付し、売上高の数値を入力すれば自動的に税額計算が行われるので、数値を正確に入力することに集中すれば短時間での作成が可能である。
大部分の事業者にとっては、この2割特例を利用した申告の方が税額面で有利になる可能性が高いと考えられるが、実は例外もある。典型的なケースとしては、売上に係る消費税から仕入に係る消費税を差引いて消費税額の計算を行う本則課税の方が、2割特例を利用するよりも納税額が少なくなる場合が挙げられ、具体的には大幅な経営悪化や高額固定資産の購入時などが想定される。また、主として卸売業を営む事業者が簡易課税制度を選択していた場合も該当し、上記の例であると簡易課税で計算した場合には納税額は約2万円となる。
以上、国税庁のホームページに掲載されている手引きから特に重要と考えられる事項を抜粋して紹介したので、是非参考にして欲しい。