サラリーマンに対する課税見直しの動き
最近メディアでは、「サラリーマン増税」なるワードが頻出している。その背景を簡潔に説明すると、防衛費の増額や児童手当の拡充をはじめとする歳出に充てるための財源確保が必要となり、それをサラリーマンに対する様々な増税によって補うというものである。政府によれば、サラリーマンを狙い打ちにした増税を考えているわけではないとのことだが、「火のない所に煙は立たぬ」とも言うので、今回はその具体的な内容として大々的に報じられた通勤手当と退職所得控除額の概要について説明したい。
まず、会社が従業員に対して支給する通勤手当については、一定の限度額以内であれば非課税となる。その限度額については、電車やバスを利用する場合には1か月15万円であり、マイカーなどの場合にはその距離によって上限額が定められている。今回報道された内容によれば、この非課税限度額の引下げが検討されているとのことであり、例えば新幹線などを利用して遠距離通勤をしている場合には影響を受けることが予想される。通勤費の金額によって手取りが異なるというケースに違和感を覚える方も少なくないであろうし、そもそも数年前にはこの非課税限度額が引き上げられた経緯もあり、政策面における整合性を疑問視する見方もできる。
次に退職所得控除額について、退職により勤務先から受け取る退職金に対する課税は、基本的には退職金から一定額(退職所得控除額)を差引いた残額の2分の1のみが退職所得として課税される。今回報道された内容は、これまで優遇されていた勤続20年超の場合における退職所得控除額の計算方法(800万円+70万円×(勤続年数-20年))について、勤続20年以下の場合と同様に一律年40万円(40万円×勤続年数)に減額するというものである。見直しの目的は労働移動の円滑化とされているようだが、退職所得課税は退職後の人生設計にも大きな影響を与えることから、特に中高年齢者に対する老後の生活への不安を増幅することになると考えられる。
少子高齢化社会の到来により、必要な歳出を賄うための増税が不可避なケースも当然起こり得るが、年齢・性別・職種などによって負担の偏りが生じないよう、公平な課税の実現がより一層求められよう。