車両を売却した時の課税関係
先の記事において、所得税関係でこれまで多く受けた具体的な質問として「車を売却した時に税金はかかるのか?」を紹介したが、ここでは本件並びにこれに関連する税務上の取扱いについて説明したい。本質問の意図するところは、「給与所得者がプライベートで使用する生活に通常必要なマイカーを売却して譲渡損失が発生したのだが、この譲渡損失と給与所得を損益通算できないか?」という内容であり、結論から言えば「損益通算できない」ということになる。随分前に廃止されたゴルフ会員権を売却した際の損益通算のことが記憶に残っていると通算できると錯覚するのも無理はないが、上記のようなマイカーの売却益・売却損については、所得計算上は考慮不要という扱いとなっている。
次に上記に関連する論点を幾つか見ていきたい。まず、特に個人事業を営む関与先から聞かれる質問である、業務用車両を売却した時の税務上の取扱いはどうか。こちらは売却益の場合には総合譲渡所得の計算対象、逆に売却損が生じた場合には一定の要件の下で給与所得など他の所得との損益通算が可能であり、いずれも税額計算に影響するという点では先の給与所得者のマイカーのケースとは異なる。よくある誤りとしては、法人と同様の思考により事業所得の計算に含めてしまうケースがあるので、この点は要注意である。
続いて、(ここからは実際に受けた質問ではないが)業務用の車両で売却益が生じ、上記のようなマイカーで売却損が生じた場合、その売却損と売却益を相殺できるかという論点がある。一般的な目線で考えれば車両同士の売却損益の通算は可能に思えるが、前述の通りマイカーの売却損はなかったものとされるため、結論としては業務用車両の売却益のみをもって所得計算を行っていくことになる。
さらに、業務用の車両で売却益が生じ、高級車のような生活に通常必要でない資産を売却した際に売却損が生じた場合、その売却損と売却益を相殺できるのか。前述の見解に基づけば通算不可能と考えるのが自然であるが、実は内部通算が可能である(当該売却損と給与所得など他の所得との損益通算は不可)。生活に通常必要な車両か否かによって譲渡所得の金額が変わり、かつ今回に関して言えば通常必要な車両ではない方が税務上有利になるという、一般目線ではやや違和感を覚える結果となる。一方、業務用車両と高級車のいずれも売却益が発生している場合には、それらの売却益の合計額が課税対象となり、こちらはマイカーの場合と比べてシビアな取扱いになる。
以上、生活に必要な車両か否か、そして損益通算と内部通算といった内容が錯綜してかなり複雑な論点になっているが、一般納税者については少なくとも冒頭のマイカーの取扱いはしっかり確認しておきたいところである。