親族等から税務相談を受ける際の留意点
これまでも何度か触れてきたとおり、私が税理士事務所を開業して以来、親族や友人などから税務相談を受けるケースが頻繁にあり、それは年々増加している。例えば親族であれば法事の席、友人であれば定期的な酒宴や忘年会などであり、極端なケースであると友人の結婚式に出席した際、隣席の人と名刺交換をした直後に質問を投げかけられたこともある。さすがに最後の例はかなりレアであるが、税金という一般にとって馴染み深いテーマを扱っている士業である以上、無論こうした事態は想定内であり、特に親族・友人から頼りにされることは自身のやりがいにも繋がっている。だが、一方で留意すべき点も幾つかある。
まず第一は、これらは税務相談を受けるに相応しい静寂な環境とはかけ離れた騒々しい場面で行われることが多く、中には既に相当量のアルコールが体内に入っているケースも少なくない。当然アルコールが入った場合にはこの手の相談には応じるべきではないが、仮にそうでなくても適正な税務判断を行うに際して支障があると認められる場合には、その場に流されて不正確或いは誤解を招く回答を提供し、後で質問者に損害を与えることのないよう細心の注意を払う必要がある。
次に、こうした場では断片的な情報を提供されるケースが大部分であり、かつ時間も大変限られているため、その細部を効率よく入念に確認しなければ正確な回答を提供することが困難である点が挙げられる。例えば最もシンプルな「所得税の税率は?」といった質問であっても、その所得が給与所得か不動産の譲渡所得かなどによって様々な回答パターンが考えられ、それらの情報を十分に得られない状況下で具体的な回答を示すことは大変危険である。ちなみに、所得税関係でこれまで多く受けた質問の一つが「車を売却した時に税金はかかるのか?」であるが、これについても車の利用用途をしっかり確認せずに回答すると、誤った結論に導いてしまう可能性がある。
最後に、相談者にとっては簡単な質問であるとの認識であっても、税理士側にとっては決してそうではないと考えられるケースがある。「簡単なことを聞くけど」「初歩的な質問だけど」「すぐ済むからちょっと教えて」に続けて発せられる質問が意外と手強かったことは、これまでにも何度かあった。特に全体の相談に占める割合が非常に高い相続税に関する相談については、相続税の基礎控除額や基本的な計算パターンを尋ねられるケースが多いが、中には複雑な不動産や保険商品の評価方法を聞かれたこともあり、その場でかなり戸惑った記憶がある。
なお、今後も様々な状況下で税務に関する質問を受けることが続いていくであろうが、その相談内容を的確に把握・整理した上で、適切に対応していくという基本方針について改めて肝に銘じたい。