賃上げ促進税制の概要
先月、令和4年度税制改正関連法案が国会で可決・成立した。今回も幾つか重要な改正内容が盛り込まれているが、その中でも岸田内閣が掲げる「成長と分配の好循環」の実現に向けてその効果が強く期待される「賃上げ促進税制」に関して、既存の所得拡大促進税制との比較において、特に中小企業向けの拡充内容に絞って見ていきたい。
まず本制度の概要は、雇用者全体の給与等支給額が一定割合以上増加した場合には、その増加額に一定の控除率(控除上限額あり。以下同じ)を乗じた税額控除を受けることができるというものである。そして今回の改正では、この控除率を最大40%に引き上げている。
具体的には、雇用者全体での給与等支給額が前年度比で1.5%以上増加している場合における控除率は、所得拡大促進税制と同様15%である。しかし、その増加率が2.5%以上である場合における控除率は30%と大幅に拡充されている。また、教育訓練費が前年度比で10%以上増加している場合には、控除率が10%上乗せされることに加え、その手続きについても一定の簡素化が図られている。教育訓練に予算を費やせる中小企業は決して多くないかもしれないが、それでも最大30%の控除率を適用できる点は大きい。
次に適用対象については、青色申告書を提出する中小企業者等であり、適用期間は令和4年4月1日~令和6年3月31日までの間に開始する各事業年度(個人事業主は令和5~6年までの各年が対象)である。従って、例えば令和4年3月期決算の法人や令和4年分の確定申告を行う個人事業主については、既存の所得拡大促進税制が適用されることになる。
最後に、分配政策の柱とも言える本税制の実効性であるが、個人的には大企業や経営基盤が充実している一部の中小企業に対しては一定の効果が期待されると考えられるが、コロナ禍で厳しい経営を強いられている多くの中小企業にとって、そのハードルは高いと言わざるを得ない。加えて税額控除方式の場合、当然のことながら法人税や所得税が発生しなければその恩恵を受けることができない点も大きい。いずれにしても、コロナに加えてエネルギー価格の高騰や円安の進行など国内外を取り巻く経営環境が大きく変化する中、中小企業の実態に応じた柔軟かつタイムリーな施策展開が強く求められる。