配当所得の確定申告と税務上の留意点
配当所得とは、株主や出資者が法人から受ける剰余金や利益の配当、剰余金の分配、基金利息、投資法人からの金銭の分配又は投資信託(一定のものを除く)及び特定受益証券発行信託の収益の分配などに係る所得であり、この配当所得(以下は全て「上場株式等の配当等」を前提とする)の処理方法は大きく分けて3パターンある。
まず、「確定申告をしない」という最もシンプルなパターン。上場会社等から受け取る配当金は、あらかじめ20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、地方税5%)の税率により源泉徴収が行われており、これで税額計算を完結させてしまうことが可能である。例えば、高額所得者で所得税の最高税率が適用されるようなケースにおいて選択されることが考えられる他、複雑な税額計算作業を極力避けたいと考えている納税者にとっては選択の余地がある。次に、「申告分離課税」を選択するという方法。その年又はその前年以前3年内に上場株式等に係る譲渡損失がある場合などには配当所得の金額と相殺できることから、配当金について既に源泉徴収された税額の還付を受けることが可能である。従って、例えば前年や前々年に多額の譲渡損失が発生している納税者については、その相殺を通じて今年源泉徴収された税額の還付を受けることが現実的な選択肢となる。最後に「総合課税」を選択する場合には、給与所得や不動産所得など他の所得との合算計算により税額計算を行うことになり、税額計算の段階において配当控除の適用を受けることもできる。上場株式等の区分や集計の手間はかかるが、特に所得税率が高くない納税者の場合には選択することで有利になるケースが多い。
3パターンのうちどの方法を選択することが好ましいのかについては、個々の申告内容により異なるが、その選択に当たって留意したい事項が幾つかある。まず、扶養控除の判定に際して、「確定申告をしない」場合には合計所得金額に含まれないが、それ以外のパターンでは一定の場合を除いて含まれてしまう点である。例えば、これまで控除対象配偶者や控除対象扶養親族であった者に一定の配当所得があるような場合、配偶者控除や扶養控除の適用対象外となることにより、家族全体で税負担が増加するというケースも想定される。こうしたリスクを回避するためには、各人の収入・所得などについて家族間でのコミュニケーションを図っていくことに尽きるだろう。
次に、上場株式等の譲渡損失との損益通算については、「申告分離課税」を選択している場合のみ適用されるので、売買取引により損失を被った納税者にとっては利点と言える。また、既に繰り越された譲渡損失との相殺も可能であるが、繰越可能期間が3年であることや前述の合計所得金額の計算上の取扱いなども含めた検討が必要となる。さらに、「総合課税」は累進税率が適用されるので、最高税率が適用されるような高額所得者が選択してしまうと、本来は約20%で済んでいた税率が大幅にアップすることで無用の納税を強いられる恐れがある。また、この場合には、「配当控除」の存在が税額計算に影響するが、全ての配当所得について配当控除の適用を受けられるわけではない。本件について簡潔に述べるならば、例えば国内上場会社から受ける配当金などについては、配当所得の10%(一定の場合には5%)部分が配当控除の額となる。しかし、「証券投資信託の収益の分配金」に係る配当所得については、その内容によって適用される割合が異なる。自身が投資している証券投資信託がどの区分に属するのかについては、「外貨建て資産割合」「非株式割合」が影響する。これらの割合は、各商品に係る証券会社の目論見書或いは証券会社から送付される支払通知書等の中に記載されているので、それらに基づいて該当する区分を確認し、正しい割合を乗じて配当控除額を求めていくことになる。配当所得=配当控除の適用ありと考え、誤って配当控除を適用することのないよう注意する必要がある。
なお、配当所得の詳細については国税庁のホームページ参照。