ウーバー配達員の確定申告
先日国税局が運営会社に対して、ウーバー配達員に関する報酬情報の提供を求めた旨の新聞記事を目にした。記事によれば、配達員は(会社員ではなく)個人事業主に該当するため、本来は確定申告を行う必要があるのだが、実際には申告を怠っている者もいるとみられ、その実態把握を進めているとのことである。当所の新着情報コーナーにおいても、過去に確定申告義務に関するテーマについては何度か触れてきたが、今回は特にウーバー配達員に絞って主なポイントを見ていきたい。
まず重要なポイントとしては、前述の通り配達員は運営会社に雇用されている社員ではなく、業務委託を受ける個人事業主に該当するため、会社から支給される給与のような「給与所得」には該当しない。これまで会社による年末調整を通じて所得・税額計算を済ませており、確定申告を1回も行ったことがない場合にはここが大きな相違点となり、配達員の中で本当に申告義務を知らなかったという悪意なき無申告も決して少なくないものと考えられる。
次に配達業務を通じて得た所得の税法上の区分については、「事業所得」と「雑所得」のどちらかになる。わかりやすさを優先して簡潔に整理すると、事業的規模により専業で配達員として従事していれば「事業所得」、小遣い稼ぎ程度の副業で行っていれば「雑所得」に区分される可能性が高いが、これはケースバイケースで異なるため一概には言えない。但し、いずれにしても「給与所得」で計算することはNGである。
続いて確定申告が必要となる所得ラインについては、例えば会社勤務を本業とする傍ら副業として従事している者については、年間所得が20万円を超えた場合には所得税等の確定申告が必要となる。なお、この際の判定基準は「所得」であり「収入」ではない点、またこのいわゆる20万円基準は所得税に関するルールであり、住民税については副業所得が20万円以下であっても申告が必要である点についても併せて留意しておきたい(令和3年2月8日付け記事「足立区が住民税の申告相談会を実施」を参照)。
さらに、所得計算に当たって重要となる必要経費について、ウーバー配達員の場合に考えられる主な費目としては、①通信費、②消耗品費、③備品費、④修繕費、などが考えられる。①は配達員であれば必ず使用するであろうスマホの通信料であり、これは当然必要経費に該当するが、(配達専用の端末でなければ)必要経費の算定に当たっては使用日数・時間などに応じて合理的に計算した事業供用割合を用いた按分計算が必要になる。②は配達物運搬用のバッグや自転車用のライトなど配達のために必要な物品購入費であり、業務との関連性如何では様々な支出が経費となりうるが、経費算入の根拠については明確に示すことができるようしっかり整理しておく必要がある。③及び④は自転車やスマホの購入費や修理費であり、①と同様に配達専用の物品でなければ事業供用割合の按分計算が必要となる。また、仮に1単位当たりの取得価額が10万円を超える場合には、原則として所定の方法により計算した減価償却費相当額しか経費として認められない。
以上、所得区分・確定申告義務・主な経費などについて簡単に見てきたが、申告義務を怠っている場合、後日税務署から文書や電話によるお尋ね・照会が行われ、結果として本税に加えて延滞税・無申告加算税などの納税を余儀なくされる可能性がある(令和3年6月23日付け記事「確定申告:無申告のリスクとデメリット」を参照)。こうした事態を回避するためにも、今回の件を通じて1人でも多くの納税義務者による適正な確定申告が行われることを強く期待したい。