退職金課税制度の概要と今後の見直し
退職金課税制度については、同じ会社で長く働くほど税負担が軽減されるという現行制度が労働市場の流動性を妨げる面があるなどの理由により、政府でその抜本的な見直しが検討されている。その結果、令和7年度税制改正では個人型確定拠出年金を一時金として受け取った場合の取扱いについて改正が行われ(詳細は割愛)、来年度以降は退職金課税制度自体の本格的な見直しが行われる可能性が高まっている。そこで今回は、他の所得に比べて優遇されていると言われている、基本的な退職金課税制度の概要について確認していきたい。
まず、退職金に対する課税が優遇されている大きな要因としては、①退職所得控除額の存在、②課税退職所得金額の計算上2分の1が控除、③分離課税による計算、3点が挙げられる。①については、勤続年数によって退職金額から差し引くことができる金額のことであり、原則として勤続年数が20年以下の場合には1年当たり40万円(1年未満の端数は切上げ。以下同じ)、20年超の場合にはその超えた年数について1年当たり70万円が控除される。この退職所得控除額が退職金額を上回れば課税所得は発生しないため、退職金に対する所得税等が発生するケースは非常に少なくなっている。
一方、例えば一部上場企業を約40年間勤務したことで3千万円の退職金を得た場合には、①をもってしても残額が発生してしまうが、②により課税退職所得金額が2分の1になるメリットも大きい。しかも2分の1になるのは所得金額であり、所得金額が高いほど税率が高くなる所得税の累進課税制度の下にあっては、税額に関しては更に大きな恩恵を受けることができる。さらに、2分の1になった後の課税退職所得金額については、③で触れた通り他の所得(不動産所得や給与所得など)と合算することなく単独で税額を計算することができるため、退職金に係る所得税額の算出に当たって他の所得金額の影響を受けることがないという点も大きな特色である。
最後に、この退職金課税の計算式が見直されるとすれば具体的にどの部分にメスが入り得るかという点については、例えば、a)1年当たりの退職所得控除額の引下げ、b)20年超勤務した場合の退職所得控除額の上乗せ廃止又は縮小、c)課税退職所得金額の計算上2分の1控除の廃止又は控除割合の引下げ、などが有り得る。また、上記の個人型確定拠出年金の改正を踏まえ、今後は小規模企業共済制度の改正や通常の退職金と併給した場合の取扱いの変更なども十分考えられ、どこに改正のメスが入るとしても退職後の生活設計に何らかの影響を生ずることになるだろう。いずれにしても、退職金は国民の退職後の生活を支える重要な原資であるという点に十分配慮した制度設計が強く求められよう。
なお、退職金課税制度に関する詳細については、国税庁のホームページ参照。