税金や社会保険の負担に影響を与えうる様々な壁
最近、メディアや新聞などにおいて「〇〇〇万円の壁」が頻繁に取り上げられており、それに伴って関与先との面談において本件に関する相談や質問を受けるケースが急増している。これらの内容の詳細については、インターネットなどでわかりやすく紹介されている記事が多数存在するのでそちらをご参照いただき、本記事では給与収入のみを有する方を前提として、この壁について誤解や勘違いを招きやすいと考えられる事項を幾つか紹介していきたい。
まず壁の種類として、代表的なものとして年収103万円、106万円、130万円が挙げられるが、103万円は税金に関する壁である一方、106万円と130万円は社会保険に関する壁であるという点はしっかり確認しておく必要がある。私が受けた相談・質問では、これらの3つの壁を全て税金絡みであると誤解していたケースが多かった。
次に、106万円と130万円の壁が社会保険料の納付義務が生ずるボーダーラインであるところまでは理解していても、それらの内容を混同・誤解しているケースもあった。少なくともこの記事を作成した令和6年11月時点では、106万円の壁は勤務先の社会保険の加入対象となるラインであり、具体的には従業員数51人以上の事業所に勤務していることや、週あたりの所定労働時間が20時間以上であることが要件である。従って、年収が106万円を超えたことのみをもって一律に社会保険の加入義務が生ずるわけではない。
これに対して130万円の壁は、簡単に言えば配偶者等の社会保険の扶養から外れて自身で社会保険料を支払う必要が生じるボーダーラインであり、勤務先の事業規模などにかかわらず全員がその適用を受けることになる。但し、仮に年収130万円を超えたとしても、それが一時的なものであるなど一定の要件を満たす場合には、引き続き配偶者等の扶養に入り続けることが可能であり、その時点における年収のみをもって一律に決定されるわけではない。さらに、例えば年齢が60歳以上である場合、そのボーダーラインは130万円ではなく180万円である点も重要であり、顧問先の中でも一律130万円であると誤認しているケースがあった。130万円という数字だけが広範に取り上げられ、固定値として我々の知識として刷り込まれているために発生しうる誤りであり、この点については正確な情報提供が必要であると言えよう。
さらに、年収算定時における通勤手当の取扱いについて、103万円及び106万円の壁の場合には原則収入から除外するのに対して、130万円の壁の場合には収入に含まれる。同じ社会保険の壁であっても、その壁によって取扱いが異なることに違和感を覚える方も多いと考えられるが、一般的に言われている「税金では含めず、社会保険は含めて計算」というパターンで事務処理を進めることは誤りであり、一定の学習・実務経験のある方ほど注意が必要であるかもしれない。
最後に、上記の各壁の違いに関する論点とは直接関係はないが、103万円の壁はあくまで所得税に関する内容であり、住民税の場合にはこれよりも低いボーダーラインである点についても併せて確認しておきたいところである。