短時間労働者に対する社会保険の適用範囲の拡大
既に新聞やテレビなどで頻繁に報道されているとおり、令和6年10月1日から短時間労働者に対する社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用範囲が拡大される。具体的には、従業員数51人以上の事業所に勤務する一定の短時間労働者(①週の所定労働時間が20時間以上、②所定内賃金が月額88,000円以上、③2か月を超える雇用の見込みがある、④学生ではない、の全てに該当する短時間労働者)について新たに社会保険加入が必要となる。
ひと昔前は、原則として1週間の所定労働時間数及び1か月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上である場合のみ加入する必要があったものと記憶しており、十数年前に税理士業界に入った私自身も、社会保険に関する知識が乏しい中にあってこの4分の3基準に関しては知っていた。それが平成28年には従業員数500人超の企業等に勤務する一定の短時間労働者に適用対象が拡大され、続いて令和4年10月には同100人超の企業等に基準が引き下げられ、さらに現在は再度同50人超に引き下げられるという経緯を辿っている。個人的には異様な改正スピードであると考えているが、少子高齢化の流れが益々加速する中にあってそれだけ国の社会保険財政がひっ迫していることがその大きな理由であろう。
さて、今回の改正により対象となった短時間労働者は、将来受け取ることができる厚生年金の受給額が増加するというメリットがある一方、社会保険料の個人負担分が毎月の給与から天引きされることにより手取り額が減少するというデメリットがある。特に最近の物価高騰により経済的な余裕がない対象者にとってはデメリットの影響が一層強く感じられるものと考えられ、この点に関しては私自身も最近法人関与先の代表者の親族から相談を受けた。一方、事業者側においては社会保険が完備されることで人材採用面においてプラスに作用するというメリットがある一方、やはり社会保険料の約半額を負担する必要があるという点は経営に大きな影響を与える可能性もある。
政府では、上記のデメリットによる悪影響を緩和すべく様々な施策を講じているが、こうした施策に対する広報活動を一層強化するとともに、従業員・事業者の双方がそのメリットを享受でき、かつ負担軽減に結びつく更なる具体的な政策展開を適時適切に行っていくことが求められる。なお、詳細は厚生労働省のホームページ参照。