入社に伴う支度金の課税関係
新規採用した者を正社員として入社させる前に、その者に対して契約金(一時金)を支給した場合、受給者側の課税関係はどうなるのか。小規模事業所の場合にはあまり発生しないケースかもしれないが、意外と複雑な思考過程を辿ることになるので紹介しておきたい。
まず、「一時的に受け取るものであることから一時所得ではないか?」との思考に至る可能性が考えられる。税額を考えた場合にはこの区分が最も有利であるのかもしれないが、一時所得には労務や役務の対価としての性質を有するものは含まれないことから、本件の場合は該当しない。
次に「将来的に正社員として勤務するのであるから給与所得ではないか?」との考え方については、契約金が労務の提供に対する支払いであるか否かが論点となる。しかし今回の場合、労務提供が行われる前に契約金として支払われていることから、給与所得の定義には合致しない。ちなみに、一時金が入社後に支払われるものである場合には、(その支給実態によって取扱いは異なるが)一般的には従業員賞与として給与所得に区分される可能性が高いと考えられる。
今回の場合には、「役務の提供の対価が給与等とされる者が支払を受ける法第204条第1項第7号《源泉徴収義務》に掲げる契約金」として雑所得に区分される。具体的には、支給額が100万円以下の場合には10.21%、100万円を超える場合には20.42%の源泉徴収が必要となり、支給金額次第では受給者側において所得税等の確定申告が必要となる。
以上、その支払名称やイメージだけで判断してしまうとミスを犯してしまう可能性があるので、その支払実態に応じて適切に区分していく必要がある。