私立高校の学費負担軽減制度
先日、当所の関与先から「来年から子供が都内の私立高校に入学することになったが、我が家は国・東京都が実施する私立高校の学費負担軽減制度の適用を受けることができるのか?」との相談を受けた。本制度を全く知らないという方も少なくないと考えられるので概要を簡単に説明すると、私立高等学校等に通う生徒の保護者等の経済的負担を軽減するため、一定の所得要件を満たす世帯を対象として授業料の一部を助成する制度である。東京都の場合、国の助成措置である「就学支援金」と併せて東京都独自の制度「授業料軽減助成金」を設けており、令和4年度は双方合計で469,000円の範囲内で在学校の授業料額(保護者が負担した金額)が上限となる。
ここで問題となるのは、上記の所得要件を満たすか否かという点である。まず本制度について説明しているパンフレットには、ボーダーラインとなる年収(約910万円、590万円など)の目安が記載されているが、この数値はあくまで一般的なモデル世帯を想定した場合の金額であるため、この数値のみをもって単純に適否を判定してはならない。もう少し突っ込んだ言い方をすれば、申請者に無用の誤解を与えるという点に鑑みれば、こうした数値は安易に掲載すべきではないとも考えられる。
実際の判定基準となる金額は住民税の課税標準額であり、来年分については来年度の住民税課税標準額により判定が行われることになる。課税標準額とは、所得金額から所得控除を差し引いた残額であり、原則としてこの課税標準額×6%から住民税の調整控除相当額を差し引いた金額が304,200円未満であれば、本制度の適用対象となる。従って、仮に年収が1千万円を超えていて上記の年収ベースでは適用なしと見られる場合でも、例えば①扶養親族の数が多い、②医療費控除が多額、③小規模企業共済制度に加入している、などの場合には所得控除の増加に伴って課税標準額が減少し、結果として適用対象となる可能性もある。繰り返しになるが適否判定に当たっては、(世帯収入の合計ではなく)必ず課税標準額をベースに判定することを強く意識しておく必要がある。
また、この課税標準額については、役所で発行される課税証明や住民税の納税通知書などを参照すれば確認できるため、毎年所得が安定的に推移する世帯にあっては、当年度の各書類をもって翌年度の適否をある程度判断できるケースも多い。一方、例えば年度によって所得が大きく変動したり、或いは課税標準見込み額がボーダーラインぎりぎりである場合には、翌年度の適否に際して厳密な試算を行うことが好ましい。さらに、この場合においては(所得税ではなく)住民税の所得金額や所得控除額を用いる点について十分注意する必要がある。その理由は、所得税と住民税では所得控除の金額が異なるものが幾つかあり、しかも住民税の方がその控除額が少ないためであり、僅かな計算誤りが適否に直結することも十分有り得る。
なお、本制度(令和4年分)の詳細は、東京都のホームページを参照。