税理士と行政書士業務
税理士資格を有する者は、行政書士試験を受験・合格することなく、一定の手続きを行うことで行政書士として登録することが可能である。私自身、開業当初からこの制度について理解はしていたが、最近まで登録について意識したことはなかった。その理由は幾つかあるが、最大の理由は現在の税理士業務と中小企業診断士業務(現在は顧問先を対象とした補助金申請などに限定)だけで手一杯であり、他士業の業務にまで手を広げる余裕はないというものである。しかし、昨年から行政書士業務への関心をそそられる幾つかの状況を経験することとなった。
まず、コロナ対策として創設された各種支援金や給付金の申請代行が可能である点が挙げられる。税理士も顧問先等に対して無償で申請サポートを行うことは認められているが、申請フォームの記入・送信を有償で支援することは行政書士に限定されている。従って、例えば顧問先からパソコン操作の苦手な高齢者を紹介された場合、行政書士登録していれば事務局が設置するサポートセンターを紹介する以外の選択肢が生まれるなど、一層柔軟かつ弾力的な対応が可能になりうるという点には留意している。
次に、相続対策面における各種手続きサポートが可能となる点が挙げられる。おそらく税理士が行政書士登録している理由の多くは、この分野におけるワンストップサービスを強く意識しているものと考えられる。ちなみに、先般知人の両親の相続対策業務に行政書士が関与しているという話を聞くに及び、今後はマーケットの広がりに比例してその需要が益々高まるであろうことを実感した。
最後に、行政書士業務の定番である建設業許可申請が挙げられる。詳細は割愛するが、私自身建設業界とは浅からぬ縁があり、その縁もあって顧問先に占める建設業の割合は年々高まっている。そして、これらの顧問先の中には建設業許可を取得しているケースも少なくなく、この場合には決算変更届や建設業許可の更新など、税理士が行う決算・確定申告とは別の業務が発生する。これらの業務は行政書士のみが取り扱うことができるため、たとえその実務に通じていても税理士が業務関与することはできないが、仮に私が行政書士登録すればワンストップで対応することが可能となるため、顧問先にとっては好ましい話であるとも考えられる。
それでは、「近々行政書士登録する可能性はあるか?」の問いに対しては、現時点においてその可能性は低いと答えざるをえないだろう。税理士としてコロナ禍で厳しい経営を強いられている顧問先に対する更なるサポートが必要であり、政府や地方自治体が実施する補助金制度の拡充・強化に伴って、その申請サポートや経営計画の策定等についても積極的に関与していくことが強く求められている。ワンストップサービスも魅力ではあるが、従前どおり税理士事務所で対応できない分野については専門の行政書士に依頼し、顧問先にとって効率的な支援体制を構築していくことがベストであると考えられる。