法人の役員報酬決定時の留意点
役員報酬については、一定の場合を除き事業年度の途中において自由に変更することはできないことから、法人設立時や事業年度終了後において役員報酬を幾らに設定又は改定するかは、法人の税務手続き上避けて通れないテーマである。役員報酬を高額にすれば法人の利益が圧縮され納税額が減少する一方、役員個人の所得が増加することで源泉所得税は増加する。従って、少なくとも節税対策の観点では、法人税率と所得税率を十分比較検討した上でこの均衡点を見つけることが重要になるが、この均衡点は個別の事情によって異なるためその実態に応じて試算を行うことになる。
まず税務面における考慮要素として、所得控除の中でも一般的にそのウェイトが高い配偶者控除・扶養控除・社会保険料控除が挙げられる。また、例えば中小企業基盤整備機構が実施する小規模企業共済制度に加入していたり、或いは毎年多額の医療費や寄付金控除がある場合には、併せて考慮する必要がある。
また、社会保険料(健康保険・厚生年金保険)の存在も重要である。一般的には役員報酬額の増加に伴って社会保険料も増加するため、この負担増も含めてトータルで試算しなければ正しい均衡点を導き出すことは困難である。加えて、例えば親族のみで経営する会社の場合における会社負担分の社会保険料の取扱いや、将来年金として戻ってくるであろう厚生年金保険料を健康保険料と同じ位置づけで考えるか、或いはいわゆる貯蓄として考えるかなどによっても、その判断は自ずと異なってくる。
さらに問題となるのは、役員が年金受給者である場合における取扱いである。詳細は割愛するが、役員報酬と年金受給額の合計額が一定額を超えると、その超えた金額に応じて年金受給額がカットされる。と言って、そのカットを避けるために役員報酬を低額に設定した場合、その分だけ法人の利益が増加することに加え、役員退任時における適正な退職金額の算定に影響を与えることにもなるため、この点に関する慎重な検討も求められることになる。
以上、役員報酬決定時のポイントについて私が特に強く意識するチェックポイントについて簡単に述べたが、これらの前提として最も重要な点としては、やはり各事業年度の損益予測を正確に行うことである。そのためには、自社を取り巻く様々な外部環境の変化や、自社が有する経営資源の強み・弱みをしっかり分析することで、経営基盤の強化はもとより節税や資金繰り対策にも結び付くことになる。