給与等からの源泉所得税額の天引き
毎月従業員等の給与計算を行う際、市販の給与ソフトによらず手書きで行っている場合、源泉所得税額の表引きはほぼ必ず遭遇する事務作業である。一般的な月給者の場合には、①扶養親族等の数、②その月の社会保険料等控除後の給与等の金額をベースに表引きしていけば良く、慣れてしまえばそれほど複雑な事務作業ではないが、留意事項も幾つかある。
まず上記①について、配偶者や子息に一定額以上の給与収入があるにもかかわらず、人数にカウントして表引きしているケースが挙げられる。特に、アルバイト収入が一定額を超え、随分後になって税務署からお尋ねが来るというケースはこれまで時々目にする。或いは、学生であった子息が就職して安定した収入を得ているにもかかわらず、扶養親族等の数から除いていないケースもあり、これらのリスク回避のためには事業所側で正確な情報をしっかり確認・管理していくことが必要である。
次に上記②については、額面支給額をもって表引きをしているケースが非常に多く、或いは通勤手当を含めて表引きしているケースもある。どちらも過少納付の問題は生じないが、前者について正しくは個人負担の健康保険料や厚生年金保険料などを控除した差引支給額をもって表引きする必要がある点、一方後者については、所得税法上と社会保険の標準報酬月額算定における通勤手当の取扱いが異なるという点を十分意識した上で、それぞれ正しい処理が求められる。さらに、賞与から徴収すべき源泉所得税額を算出する場合には、前月の社会保険料等控除後の給与等の金額をベースとして賞与の金額に乗ずべき率を求めるといった、月給の表引きとは異なる算出過程を辿ることから、長年の慣習などにより毎月定額を天引きしてしまうような場合、過少納付となってしまう可能性も十分考えられる。
続いて、扶養控除等申告書を勤務先に提出していないにもかかわらず、甲欄で表引きしているケースである。同族会社の社長の配偶者がパート先に同申告書を提出しており、その同族会社からも給与支給を受けているにもかかわらず、その給与から手引きする税額を甲欄で表引きしているケースがその典型例である。仮にこのケースに該当する場合には、過少納付となっている可能性が非常に高いので、乙欄で正しく税額計算を行う必要がある。
最後に、障害者や寡婦に該当するケースは要注意である。扶養親族数にそれぞれ定められた人数を加算して表引きすることが正しい処理方法であり、こうした事項をしっかり管理することにより、(仮に扶養控除等申告書にその旨の記載漏れがあっても)誤って障害者控除や寡婦控除を考慮せずに年末調整を行ってしまうというリスクを避けることができる。