事前確定届出給与を利用する際の注意点
つい最近、問合せのあった法人からの初回相談で「月額役員報酬に代えて年2回に分けて役員賞与を支給することで社会保険料が節減できると聞いたが、その概要を教えてほしい」という質問を受けた。本テーマについてごく簡単に説明すると、年3回以下の役員賞与として支給した場合、その支給額に対する健康保険料・厚生年金保険料にはそれぞれ上限額が設定されているため、月額役員報酬をあえて低額にし、残額を賞与として支給することで社会保険料の引下げを行うことが可能となるスキームである。
給与に占める社会保険料の負担割合が大きい中にあって、少しでもその負担を軽減したいという気持ちは大変よくわかるが、実施にあたっての注意点もある。まず、タイトルの事前確定届出給与の届出を毎年所定の期日までに所轄税務署宛に提出することが必要となり、かつ届出通りの年月日・金額通りに支給しなければ、原則としてその全額が損金不算入になるというリスクがある。例えば、この届出を提出期限までに提出しなかったケースや、うっかり定められた支給日に支給することを失念してしまったケース、さらには資金繰りの都合で定められた金額の一部しか支給しなかった場合には、原則として損金算入が認められず、上記の社会保険料節減額を遥かに上回る税負担が発生する恐れがある。
次に、何らかの事情により退職を余儀なくされた場合における退職金の支給限度額が大幅に低下するリスクが挙げられる。支給限度額は、一般的に退職直前の月額役員報酬×勤続年数×功績倍率で求められるため、月額役員報酬が低額であることは受給する退職金額や会社の損金算入額にダイレクトに影響する。さらに、一時的に月別試算表の数値が不自然になり、損益を対前年同月で比較する際や資金収支の分析に影響を与える可能性があり、金融機関など利害関係者に対しても良くない印象を与えてしまう恐れがある。
なお、実際に本スキームを利用している事業所はどの程度存在するのかは不明であるが、本スキームの適用に当たっては、諸々のリスクを十分に勘案した上で極めて慎重に検討を行うことが求められる。