所得拡大促進税制適用時の調整前事業所得税額
既に何度か説明している所得拡大促進税制については、年ごとに事業者にとって使い勝手の良い制度に改正されており、(事業所の経理処理方法にもよるが)現在では損益計算書「給与手当」の金額を前年度(年)と単純比較するだけでその適否が確認できるケースも多い。一方で税理士事務所側としては、その適否の見落としや計算誤りには一層の注意を払う必要がある。
特に個人事業主の場合には、普通に事業活動を営んでいれば所得税額が発生することが多いため、仮に従業員を雇用している場合には、まずもって本税制の適否並びに大体の控除税額を算定するよう強く意識することが求められる。具体的な特別控除税額の計算について、現在は税務申告ソフトを使えば自動計算されるため、当事務所においても個々の確定申告について厳密な手計算を行っているわけではない。しかし、今年たまたま1件の確定申告書について検算を行ったところ、幾つか留意すべき点があったので、その時の備忘録も兼ねて説明しておきたい。なお、今回は所得拡大促進税制の一般的な制度概要に関する説明は割愛する。
まず、特別控除額の算定に使用する所得税額は、事業所得に係る税額部分(調整前事業所得税額)に限られる。調整前事業所得税額は、厳密には総所得金額に係る所得税額×事業所得の金額 / (事業所得、不動産所得、給与所得、総合課税の利子所得・配当所得・短期譲渡所得、雑所得の合計額+総合課税の長期譲渡所得の2分の1の金額と一時所得の2分の1の金額の合計額)で求められるが、細部を考慮せずに極めて簡潔にまとめると、総所得金額に係る所得税額×(事業所得金額/全対象所得金額)となる。
本算式に関する計算上の留意点は幾つかあるが、例えば総所得金額に係る所得税額となっていることから、株式や先物取引に係る譲渡所得税額は計算対象からは除かれる。次に、配当控除がある場合にはその控除後の税額となる。また、事業所得金額の割合部分の算式について、赤字の所得がある場合には0とみなして計算し、さらに純損失の繰越控除は考慮不要である。
以上、細かく見ていくとかなり複雑な論点ではあるが、この調整前事業所得税額×20%の特別控除限度額を控除する場合には、本計算結果がダイレクトに税額に影響する。また、調整前事業所得税額は一定の機械等を取得した場合や試験研究を行った場合の特別控除額の計算においても登場する論点であるので、これらの計算誤りを回避するためにもしっかり確認しておきたいところである。