年次有給休暇制度の概要と現在の取得率
労働基準法では、業種・業態にかかわらず、また正社員・パートタイム労働者などの区分なく、一定の要件を満たした全ての労働者に対して年次有給休暇(簡潔に言えば取得しても賃金が減額されない休暇)を与えることが義務付けられている。具体的には、雇入れの日から6か月継続勤務及び全労働日の8割以上出勤の2要件を満たした場合に付与され、その付与日数は継続勤務年数に応じて定められている。例えば、継続勤務年数が0.5年の場合には10日、同6.5年以上の場合には20日が付与日数であり、これらは労働者が請求する時季に与えることとされているので、労働者が具体的な月日を指定した場合には一定の場合を除いてその日に年次有給休暇を与える必要がある。
それでは我が国における年次有給休暇の取得率はどの程度かという点について、厚生労働省が実施した令和6年就労条件総合調査によると、令和5年の1年間に企業が付与した年次有給休暇日数(繰越日数を除く)は、労働者 1 人平均は16.9日、このうち労働者が取得した日数は11.0日で取得率は65.3%となっており、昭和59年以降最も高い割合となっている。社会保険労務士試験の一般常識系科目の出題においてもこうした統計数値は頻出論点であり、私も受験生時代にはこれらの数値にしっかり目を通していたが、その際の印象としては意外に高いと感じた。この要因としては、本調査対象先が常用労働者30人以上を雇用する一定の民営企業であることから、小規模事業者は対象外であることが大きく影響しているものと考えられる。
小規模事業者の場合には、年次有給休暇制度に関して曖昧な運用が行われていたり、或いはそもそも法令の不知などにより実質的に制度が存在しないケースも十分考えられる。だが、前述の通り年次有給休暇は一定の要件を満たした全ての労働者に取得する権利があり、年5日の年次有給休暇を取得させなかったなど一定の場合には、事業所に対して労働基準法による罰則が適用される他、時季・日数及び基準日を労働者ごとに明らかにした書類(年次有給休暇管理簿)を作成し、当該年次有給休暇を与えた期間中及び当該期間の満了後3年間保存しなければならない。
働き方改革が叫ばれる中にあって年次有給休暇の取得率についても大きな関心を集める中、労働者が心身の疲労を回復してゆとりある勤労者生活を実現するという本来の制度目的に基づき、事業所は年次有給休暇を取得しやすい職場環境を作り、その取得促進を図っていくことが強く求められる。
なお、詳細は厚生労働省のホームページ参照。