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税理士と社会保険労務士の業際問題

 約1か月前の話であるが、税理士が社会保険労務士法違反で逮捕されたとの記事を目にした。退職代行サービスを展開する事業所が弁護士法違反の疑いで家宅捜索を受けた時期と重なり(令和7年10月27日付け記事「退職代行サービスと弁護士法違反」を参照)、このニュースと比べればメディアでの取り上げられ方は地味であったが、個人的には非常に衝撃的であった。

 まず税理士及び社会保険労務士ともに、その資格を持つ人だけが行うことが許されている独占業務があり、税理士の場合には税務相談や税務申告、社会保険労務士の場合には労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成・提出や賃金台帳の作成などが挙げられる。インターネット上のニュースを確認した限りでは、今回逮捕の理由は、社会保険労務士の独占業務である労働保険に関する申告書等の作成・提出を有償で行っていたことであり、本件は法令違反に該当する。

 一方、法令違反を犯せば相応の罰を受けるのは当然であるが、今回の一件が逮捕にまで至ったことは個人的には非常に意外に感じた。と言うのは、税理士事務所が長年の慣習等により顧客サービスの一環として労働社会保険事務に関与しているケースは決して珍しいことではないものと考えていたからである。同様に、司法書士の独占業務である法人設立や役員の選任・重任登記、行政書士の独占業務である建設業許可の申請・更新や決算変更届の作成について、税理士が関与しているケースがどの程度存在するのかも大変気掛かりなところである。

 逆に、税理士資格を有さない者による税理士業務への関与もある。例えば、税理士以外の者が確定申告書の作成を代行することは税理士法に違反する行為であり、逮捕案件も時々耳にすることがある。依頼者側の心理としては、税理士に依頼する場合に比べて確定申告報酬を削減できるメリットを考えてのことなのだろうが、そもそも法令違反であることに加えて、誤った申告を行うことにより依頼者自身が不測の損害を受けることもあるため、無資格者への依頼は絶対に避けるべきである。

 この他の微妙なケースとしては年末調整事務が挙げられる。例えば、顧客から給与計算業務を請け負っている社会保険労務士がそのまま年末調整を行うケースが挙げられるが、これは法令違反に該当する。給与計算自体はどちらの独占業務でもないことから、仮に給与計算を社会保険労務士に依頼している場合、年末調整は別途税理士に依頼するか、或いは自身で対応する必要がある。一方、給与計算を税理士に依頼している場合には、年末調整も併せて依頼することが可能であるため利便性は高いと言えるが、給与計算業務を受任しない税理士事務所もある点は要注意である。

 最後に、独占業務という名の士業の壁は士業側にとっては極めて重要であるが、一方で依頼者側にあってはその存在すら知らないケースが多く、税理士であればその付随業務も概ね対応可能と考えていることも決して少なくない。顧客に適正な業務サービスを提供するという観点において士業の独占業務の存在は不可欠である一方、顧客の様々なニーズに迅速に対応していく必要もある。その双方を実現させるためには、①税理士が他士業の資格も取得する、②他士業の有資格者を採用する、③他士業の事務所との緊密な連携強化を図っていく、といった対応が現実的であると考えられる。

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