賃上げ促進税制の適用に関する実務上の留意点
中小企業向け「賃上げ促進税制」は、青色申告書を提出している中小企業者等が一定の要件を満たした上で、前年度より給与等の支給額を増加させた場合、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度である。令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度において本税制の適用を受けることが可能であり(詳細は令和6年4月13日付け記事「中小企業向け賃上げ促進税制の概要と留意点」を参照)、当所でも既に多くの関与先について本税制を適用した上で法人税等の確定申告を行っていることから、今回は本税制の適用を受ける場合の留意点について自身の経験を踏まえて紹介したい。
まずは、決算事業年度の雇用者給与等支給額と前事業年度の雇用者給与等支給額を正確に算出する必要がある。基本的には、給与手当・賞与・雑給といった人件費系の勘定科目に計上されている金額を集計することになるが、例えばその中に代表者の親族が含まれていたり、雇用調整助成金を受給している場合には要注意である。
次に、税額控除率の上乗せ要件の該当有無をチェックする必要がある。なお、教育訓練費増加による上乗せ措置に関しては、昨年末に公表された令和8年度税制改正大綱において廃止が明記されているが、少なくとも現在(令和8年1月)は確認が必要である。しかも、教育訓練費の金額要件はかなりハードルが低いので、例えば自社の従業員全員に時間的拘束の緩い〇〇研修・講習会を受講させただけでも該当する可能性は十分にある。また、「くるみん」(子育てサポートに関する国の認定)や「えるぼし」(女性の活躍推進に関する国の認定)について、関与先事業所がこれらを取得しているにもかかわらず、税理士事務所側がその情報を共有していないがために税額控除額の上乗せをせずに申告するというケースも起こり得る。
さらに、税額控除限度額を上回る金額の繰越処理を失念しないという点も大変重要である。ちなみに、これまで私が申告に関与して本税制の適用を行った全ての事業所が税額控除額の上限(法人税額又は所得税額の20%)の制限を受けており、今後も更に多くの事業所が繰越税額控除の適用を受ける可能性が高いと考えられる。但し、適用を受けるためには申告書に所定の明細書が添付されていることが要件であるため、くれぐれも添付漏れがないよう注意する必要がある。
最後に関与先に対する周知が挙げられる。前述のとおり、本税制は従前から存在していたものであるが頻繁に改正が行われており、令和8年度においても上記の教育訓練費要件の廃止をはじめとする改正が予定されている。従って、改正内容の再周知はもとより、当期の税額控除額や翌期への繰越税額控除額などについてもしっかり伝えることにより、将来的な従業員の賃上げや賞与支給額を検討する上での一助としてもらうことが必要である。
なお、賃上げ促進税制の詳細については中小企業庁のホームページを参照。






