今後懸念される税・社会保険等の負担増
先月以降、テレビや新聞等で社会保険料や税金の負担増に関する報道を頻繁に耳にする。まずその筆頭に挙げられるのは国民年金保険料の納付期間の延長であり、先月から急にクローズアップされてきた。国民年金保険料は主に自営業者や短時間労働者などが納付し、現在の年間納付額は1人当たり約20万円。報道ではその納付期間が5年間(59歳から64歳に)延長されることが検討されているとのことなので、単純計算で100万円の負担増になり、夫婦であれば合計200万円という試算になる。将来の受給額が増加するという点では好ましいが、特に低所得者にとっては5年で100万円を捻出することは困難であると思われ、今後具体的にどのような制度設計になっていくのか大変気がかりである。ちなみに細かい話であるが、雇用保険料率については今年10月から引き上げられ、事業主・労働者双方の負担額が増加していることに加え、国民健康保険料の保険料についても、来年度から年間上限額を2万円引き上げるとの方向性が示されており、様々な部分でじわじわと負担が増している。
次に、首相の諮問機関であり租税制度に関する事項を調査審議する「政府税制調査会」では、①消費税の増税、②退職金課税の見直し、がテーマに挙がったとの報道がある。まず①に関しては、消費税率を1%上げると2兆円以上の税収が確保できると言われており、税収確保のためには最もシンプルかつ着実な対応と言える。しかし、平成26年に8%、令和1年には10%と数年間で2回アップしていることに加え、来年10月から導入が予定されているインボイス制度によって実質的に負担増を強いられる事業者が多く発生することを勘案すると、少なくとも数年以内に再々度アップすることは現実的でないと考えられる。
②は退職所得計算時の控除額について、勤続年数にかかわらず一律にすべきであるとの意見があった模様である。現在は勤続20年を超えると1年当たりの控除額が増加するスキームになっており、昭和時代の終身雇用制度を前提とした勤続年数が長いほど有利な制度設計になっている。退職金は税務上有利に扱われるというこれまでの定説が覆されるような事態になる可能性は低いだろうが、個人的には節税対策の定番である小規模企業共済制度の加入メリットが低下する可能性がある点が懸念される。
日本の財政事情が悪化する中、こうした増税等は避けて通れないのかもしれないが、国民にとって過度な負担とならないよう十分な配慮が求められる。